私がSES企業もとい中堅SIerのさえないSEからデータサイエンティストとしてデータ分析企業に転職して半年が経ちました。
この半年間、新しい環境で新しい仕事を覚えることにひたすら注力してきましたが、一度ここで立ち止まって、転職してからの変化を整理してみたいと思います。
転職前の環境
本題に入る前に転職前の状況を書いておきます。転職してからの結論だけ知りたい方は読み飛ばしていただいて構いません。
前職は一応ホワイト企業でした
私の前職は独立系の中堅SIerで東証一部上場、従業員数は2,000名を超え、多くの子会社を傘下にもつまあまあの大企業でした。
部署も主力の銀行システムから車のメーターや家電などの組み込み系まで幅広く扱っており、そのためやりたい分野があり手を挙げれば大体挑戦できる環境でした。
また、上場企業なのでコンプライアンスには厳しく残業時間の管理などは徹底していました。教育費にも予算を割いており研修もまあまあの頻度で用意してくれていました。
社員も差はありますが、勉強熱心な技術者が多く超大手にも引けを取らないレベルの方もいたと思います。
そういう意味では絶対就職したくない先として俗に言われるSES企業とは一線を画していました。
実態はエンジニア派遣企業
しかし、結局私は退職しました。上記のメリットを上回るデメリットが自分の中にあったからですね。
会社自体はホワイト企業なのですが、この会社のビジネスは結局エンジニアを別企業に派遣することで成り立っていました。(大きな会社なので部署によって差はありますが)
派遣先についてはこちらの意向をかなり配慮してくれるので、うまく立ち回れば自分なりのキャリアパスを構築するメリットはあるのですが、現場ではしょせん派遣社員です。
派遣社員にはビジネスの中枢にかかわるような仕事は回ってきません。一応エンジニア派遣なので、派遣先の正社員にはできない技術的な業務をやるのですが、雑務レベルのものが多いです。
私の場合はデータの前処理をひたすらやっていました。前処理はデータを扱う上で必須の工程なのですが、ひたすら地味です。あまりクリエイティブな要素もなく、市場価値も低いというのが現実でした。
給料が低い
やはり、決定的な決め手は給料です。お金だけで仕事を選びたくはないのですが、背に腹は代えられないという言葉はあります。
業種にもよるでしょうが、給料の目安は自分の上げた売上の3~4割です。私の場合は月単価100万円で派遣されており、年収は500万円に届きませんでした。年売上が100万円 × 12か月 = 1,200万円と考えると妥当な給料ではあります。
しかし、東京都の男性正社員の平均年収は700万円弱と考えるとこれはあまりに寂しい金額です。就職後に勉強しない社会人が多い中で、エンジニアは休日も新しい技術の習得や資格の勉強にも励んでいかなくてはいけませんし、コミュニケーション力や柔軟性も求められます。
平均程度の年収でも割に合わないのにそれ以下では話にならない、常々そう私は考えていました。
派遣先企業の社員は私の倍程度の給料はもらっていました。優秀で人格も優れた方たちでしたが、私の2倍の成果をアウトプットしてるかといわれると全くそのようには感じません。正社員のほうが負う責任は大きいのでしょうが、私も同じ立場に立てば同じくらいのことはできると日々悔しい思いをしていました。
これは個々の能力の問題というよりは商流の問題です。能力的にどれほど優秀でも派遣企業に勤めている限りは月単価の人月商売からは抜け出せないので、売上も限られます。
給料の高い企業に入れなかったのは自分の力不足。3年我慢してさっさと転職しようと入社時から思っていました。結局4年以上いましたが。
技術の習得環境には不満がなかった
こうして、前職のことを書いてみると給料面での不満にたいする字数が多くなるのが驚きですが、これは給料以外の部分では不満が少なかったことの裏返しとなります。
残業は近年の働き方改革で大幅に削減されてましたし、派遣先はある程度選べたので自分のスキルセットを能動的に構築することが可能でした。(前述したとおり派遣社員に任される仕事は一般的には雑務に近いものですが、立ち回りと意欲次第で面白い案件に参画できることもありました)
特に最後に派遣された先の企業は寛大で(そのときはほぼ転職が決まっていましたが)、派遣社員でも正社員と同じように扱ってくれる稀有な環境でした。念願のデータ分析案件にもわずかですが携われましたし、やろうと思えばもっと色々なことがやれたと思います。
しかし、給料面が大きなネックになりました。転職後の待遇は前職の年収に引っ張られるので、早いうちにしておかないと、どんどん給料は上げられなくなります。既に30歳を超えていた私には時間がありませんでした。
転職後の環境
ようやく、本題です。私の転職先はデータ分析を主業務とする企業になります。社員100人未満の小さな企業ですがデータ分析に特化した高い専門性を武器にしており、一人当たりの売上は前職の企業の倍以上となっています。
悲願のデータ分析案件に携わる
長年、データ前処理案件ばかりに携わっていた私にとって、データ分析やモデリングの案件に(サポートではなく)メインプレイヤーとして参画することは長年の悲願でした。転職先企業はデータ分析特化の会社なので、当然参画する案件もデータ分析関連ばかりになります。
率直に言って、仕事は格段に楽しくなりました。分析フェイズまでの担当となると色々な切り口でデータを観察する必要があり、決まった手順というのはありません。
仕様通りに作ることが求められる下っ端SEの業務と異なり自分の頭で考える余地が多分にあり、それがゲーム感覚のように感じられます。データサイエンティスト最高!!と思う毎日です。
緩い裁量労働制という労働者の天国
データサイエンティストの仕事自体が楽しいというのはもちろんですが、会社の働き方の仕組みも良い方向に働いていると言えます。
転職先の会社は裁量労働制を採用しています。残業代はでませんが、働く時間はいつでも選べるという仕組みです。朝寝坊して昼から働いてもいいし、夕方早く帰ってもいいし、深夜まで長時間労働するのも自由です。
この裁量労働制は世間では悪評高く、定額働かせ放題と揶揄されることもあります。残業代がでないのをいいことに、1日8時間では終わらない多量な仕事を従業員に押し付ける企業がいるからですね。
しかしこの会社では週2~3日程度の仕事でノルマが達成でき、更にたくさん仕事をこなした人にはその分ボーナスが多く支給されるという仕組みになっています。「緩い裁量労働制」という天国のような環境です。
これで会社が成り立つ理由はSEと比べて、データサイエンティストの受注単価が圧倒的に高いからです。SE1人の月単価が100万円とするとデータサイエンティストの受注単価は200万円~となります。希少価値が高いスキルをもてば、同じ労力でも倍以上の報酬が得られるわけですね。
私は結局、いろんな案件に手を挙げてしまって週5フルで働いていますが、自分で仕事量を調整できる今の環境は心理衛生上最高です。派遣社員のときは常駐先の社員がお客様なので気を使いますし、月○○時間の契約なので仕事があろうとなかろうと必ず職場にいなければなりませんでした。窮屈でしたね、あの頃は。
コロナ渦という僥倖
こんなことを書くと不謹慎なのかもしれませんが、コロナ渦は私にとってまさに僥倖でした。リモートワークが導入されたからです。
実は自宅から会社まで片道1時間20分あり、転職するにあたっての懸念点でした。データを扱う関係上、セキュリティの問題からリモートワークは難しいとされていたのですが、このコロナでそうも言ってられず急遽導入。
全データをリモート環境にするのは難しいというのもあり現在は週1~週2での通勤ですが、往復3時間近い通勤を省略できるのは体力的にも精神的にも大きなメリットです。あまり大っぴらには言えませんが、リモートワークの日には昼寝してるときもあります。裁量労働制ですからトータルで結果出せば、何も文句は言われません。
現在はやる気があるときだけ仕事して、やる気ないときはソファに転がったり外でぷらぷら散歩する毎日です。そんなことで仕事が回るのかと思われるかもしれませんが、早朝から深夜まで没頭している日もあるので、トータルの時間ではトントンくらいでしょうか。もちろん、精神衛生は大幅なプラスです。
SE時代に培ったエンジニアリングスキルが即戦力につながる
データサイエンティストはシステム開発をする職種ではありませんが、データをいじる関係上、プログラミングをはじめとするITスキルは必須になります。ただ、あくまでデータに関する部分だけなので使う技術は限定され、求められるITスキルは(SEと比較して)そこまで高くありません。
私のスキルアセットはSQL + α くらいなもので大変しょぼいものでしたが(特定避けるためにぼかして書いてます)、何だかんだデータ前処理には慣れていますし、プログラミングの勘所もあるし、薄く広くでもITの知識はあります。それがデータサイエンティストの仕事をするうえで大きな武器となっています。
実際に私はデータ分析では代表的なプログラミング言語Python・Rを実務で触るのが初めてか2回目くらいの経験しかありませんでした。が、「緩い裁量労働制」のおかげで空いている時間に基本書を1冊読んだ程度で、すんなりと実務に入ることができました。
これがプログラミング初めての方であれば、かなりきついと思います。Hello World!! の段階から独力で実務レベルまで学びきるのは、よほどの素質がないかぎりつらい。リモートワークで先輩社員のサポートを受けにくいことも考慮しなければいけません。
このSE時代の経験が活き、コンサルなど他職種から転職してきた方たちが慣れない業務に苦しむ中、私だけはプロパーの社員と遜色ないレベルで仕事ができている状態です。
もちろん、統計や機械学習など新しく仕入れなければならない知識はありますが、これらは大まかに仕組みがわかっていれば実務上は十分です。まずは「ITスキル」という筋肉が必要でこれを身につけるのは数年の実務経験が必須。前職までの下積みがようやく報われました。
年収は200万円程度の上昇
前の会社を辞職した大きな原因の一つとなった給与ですが、これも大きく上がりました。まだ賞与の額が確定してないのですが、少なく見積もっても年収600万円は固いです。業績よければ、700万に届くかもしれません。
そして、これでも現在の会社だと新卒3年目でもらえる給与と変わらないと思います。私の場合は前職の給与が低すぎたので、転職後の待遇が会社の平均基準よりも低くなっているのですね。逆に言えば、実力次第で上昇する余地が大きく、私と同年代で1,000万円以上もらっている社員もいます。
仕事は楽しく、楽になったにも関わらず給与は1.5倍近くに上がる世の中です。やはり行動していくのは大事なんだと強く身に沁みました。
もちろん、30歳過ぎて都内で600万円というのはまだまだ高い数値とは言えません。しかし、これだけ裁量持って楽しく働ける環境に身を置けたこと自体が大変な幸運であると感じています。
転職して感じたこと
高給になるほど仕事が楽になる。人生も楽になる
変な話ですし、あくまで私のケースの中だけの話かもしれません。
理由1:裁量が与えられ自由に仕事ができる。特に成果に対して厳しくなるわけでもない。
これまで、今の会社を含めて3社ほど経験してきました。①零細SES企業 → ②中堅SIer → ③データ分析専門ベンダー という流れです。給料は①のころは生活に必要最低限のものしかもらえない状態でしたが、その後転職を重ねてだんだんと上げてきました。
普通の感覚であれば、給料が上がるほど責任が大きくなり仕事の難易度も上がる気がします。しかし専門性という意味では③が一番高いのでしょうが、仕事の難易度は①②のほうが高かったと思います。
難易度が高いといっても複雑な仕様をいつでも説明できるようにしっかり抑えておくとか、資料を綺麗に作るとかそんなレベルですが上司や派遣先の監視の目があったので、常に神経を使っていました。
逆に③は自分の仕事に集中できる裁量と環境が与えられ、のびのびと仕事ができています。だからといって求められる水準のアウトプットも①②と比較して格段に高いようには思えません。
結果、やはり③のほうが仕事が容易に感じてしまいます。年収が違っても、しょせん同じ人間が同じような職種で仕事をしている以上は求められるアウトプットが極端に変わることはないのでしょう。
給料が上がる ⇒ 立場や裁量の扱いも上がる ので仕事は楽になります。やっぱり変な話ですね。
理由2:一緒に働く社員の違い
仕事のストレスの大半は人間関係といわれますが、実際に一緒に働く同僚・上司がどんな人かも重要なファクターになってくると思います。
これまで働いてきた会社の社員の学歴をざっくり表現すれば、勤めた会社順に①高卒・専門卒、②中堅私大卒、③国公立大・有名私立大学院卒 といったイメージになります。もちろんどの会社にもいろんな属性の人が混ざっていますので、あくまでその会社社員の多数派を占めるという意味合いです。
(以下、あくまで私の1個人のケースに過ぎないととらえていただきたいです。学歴差別のようなことを書くのは本意ではないので。)
一緒に働いていて②③は差は感じませんでしたが、①については「大丈夫かな?」と思う方が多々いました。遅刻常習犯・パチンコで有り金全て使う・人の陰口を平然と言うなど、人として問題ありの方が結構見受けられました。
こういう人と一緒に働くとどうしてもこちらの心も荒んでいきます。
やはり低賃金の会社はそれなりの人材しか集まらず、人格もそれに比例して悪化するのであろうと感じます。高学歴・大企業勤めの人にも変な人はいますが、私の中の統計では常識が備わっており、向上心が高い方が多いです。
常識のある人と一緒に働くほうが、ストレスも減り楽に働けるようになります。キーエンスのような一刻一秒のアウトプットの質を求められるような企業は例外でしょうが、基本的には優秀な社員がいる会社 ≒ 高給な会社であるほうが余計な人間関係のストレスを受けずに働くことができます。
結果:富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなる
以前までの私であれば、高年収の仕事であるほど責任が重く精神的なストレスも大きいだろうと考えていました。しかし今回の転職を通じて好待遇の職場は給与だけでなく、それ以外の面でも優遇されているところが多いのではないかと思うようになりました。
リモートワーク一つとっても実施されているのは一部の企業だけで、例えITでも中小企業や客先常駐のエンジニアは今もオフィスに出ているという方は多いのではないでしょうか?大げさでなくリモートワークは「選ばれし者の働き方」です。
つまり、高給取りは経済的な部分以外でも大きな恩恵を受けています。逆に低賃金労働者は経済的にも時間的にも余裕のない働き方を続けざるを得ません。
非常に残酷な世界です。今後ますますこうした二極化は加速するでしょうが、政治家でもない一市民にできることは、なるべく下側に振り落とされないように(上側に這い上がれるように)努力を怠らないようにするしかありません。
今の仕事環境は憧れのセミリタイアの環境に近い
最近、流行の言葉に「Fire」なるものが流行っています。若いうちに仕事をリタイアして、自由を手に入れることを意味するそうです。
私も以前から自由な時間を得るために、仕事をなるべく若い時期で辞めたいと思っていました。それを叶えるために株や仮想通貨に投資もしてきました。
しかし図らずも現在、日々の大半を自宅で過ごしながら、好きなタイミングで好きな仕事をしています。これは、「完全リタイア」とは言えずとも「セミリタイア」には近い形なのではないでしょうか。
(私の場合、会社員は辞めていませんが)
「セミリタイア」は恐らく「完全リタイア」よりも現時点の私にとっては理想の形です。「完全リタイア」となって仕事がなければ今度は有り余る時間を何に使うかという問題が出てきます。豪遊できるだけの資産があったとしても、何年も飽きずに遊び続けるのはきっと至難の業でしょう。
むしろ、仕事を自分の趣味に近い形でストレスがかからない程度に楽しんでいくほうがバランスがとれた健全な生活が送れそうだと考えています。
リモートワークと緩い裁量労働制の組み合わせは「セミリタイア」に近い環境を生み出しました。疑似的ではありますが、今の私は時間の不自由から解放された状態にあると言えます。給料も生活に困らない程度は頂いているので経済的な不自由もないといっていいかもしれません。
こうした仮「セミリタイア」生活を体験している中で、もしも本当に(完全リタイアできるくらいの)莫大なお金があったら自分は何をしたいのだろう、と日々考えてしまいます。
この辺は書き出すとまた長文になりそうなので別の機会にしますが、今後のライフプランを今のうちにしっかりと練っておきたいと思っています。
これからについて
社内随一のデータサイエンティストを目指していく
なかなかハードル高いですが、せっかくなので目指していこうと思います。
わかりやすいものとしては、データサイエンティストのコンペティション「kaggle」で「kaggle master」の称号をとることでしょうか。もちろん、通常業務もがんがんこなしていきます。
会社は実力主義で若手でも上に引き上げてくれる文化なので、早く信頼を勝ち取って重要なポジションを任されるようになりたいなと思います。
データサイエンティストの世界の入り口に立ったものとして、勉強しないといけないことはたくさんあり、これからも山あり谷ありのキャリアが続いていくでしょう。
しかし、ようやく下積みの時代が終わり表舞台にたてた感じがあります。仕事はもっとエキサイティングに大きく広がっていく予感がしており、これからの未来が楽しみです。
以上です。長文お付き合いいただきありがとうございました。
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